馬鞍山の自然栽培茶を原料にプーアル茶と鳳凰単叢烏龍茶のハイブリット茶を開発しました。この商品はある出会いがきっかけで生まれました。
潮州出身の茶師との出会い
私が馬鞍山の周辺地域で生産者を捜していた際、非常に腕の良い生産者を見つけました。面白い事にこの生産者は潮州の鳳凰鎮、つまり、鳳凰単叢烏龍茶の産地の出身でした。
更に、この生産者の家族は代々鳳凰単叢烏龍茶を加工している本格的なお茶一家と言うことが後に判明しました。鳳凰単叢烏龍茶と言えば、数あるお茶の中でも特に加工が複雑で、高い技術を非常とするお茶です。
彼は鳳凰単叢烏龍茶の長男としで生まれたものの、幼い頃から人並み外れてお茶が好きだったことから、家業を継がず、より良いお茶原料を求め、中国のお茶産地を旅してまわっていたそうです。様々な地域をまわった結果、彼が行き着いたのは雲南省でした。雲南省には実生(種から撒かれたお茶)の自然栽培茶が残っており、無肥料のお茶が生み出す自然な味わいに深く感銘を受けたそうです。彼が目を付けたのは、雲南省の中でも特に昔ながらの農業が残っている、臨滄のミャンマー国境付近、雲南省の臨滄馬鞍山周辺地域ででした。
異色を放つ潮州人
因みに、「潮州」は広東省に位置し、功夫茶(工夫茶)の発祥の地として知られております。私の経験では潮州人は極めて勤勉で細部に関して非常にこだわりを持つ民族です。大げさかもしれませんが、私はよく潮州人は日本人よりも勤勉だと友人に話すことがあるほどです。潮州人は世界でも成功をおさめている人が多く、香港の富豪である李嘉誠をはじめ、タイで成功を収めている富豪の多くも潮州人であることが良く知られております。
事前予約による特注で実現したお茶
昨年この生産者と話をした際、私が仕入れのために鳳凰鎮の烏崠山を毎年訪問しているという話をしました。彼は非常に喜びました。私が鳳凰単叢烏龍茶に深い興味を持っていることを知った彼は、あるお茶を提案してくれました。それは鳳凰単叢烏龍茶の基礎となる発酵スタイル(浪青)を取り入れ、烏龍茶とプーアル茶の特徴を併せ持つお茶です。鳳凰単叢烏龍とプーアル生茶の特徴を併せ持つお茶とはまさに夢のようなお茶です。私は1年間このお茶の事が頭から離れず、是非このお茶を作り上げたいと思い続けておりました。そこで、今年はシーズンが始まる前に雲南省へ入り、生産者に購入の意思を伝え、生産を行う上での各種基準を話し合いました。一般的なプーアル茶と異なり、この種のお茶は完全オーダーメイドで特注する必要があり、お茶の摘むタイミング、摘み方、取り扱いにはじまり、ありとあらゆる点を打ち合わせ、事前に生産を予約をする必要がありました。
作り方は鳳凰単叢烏龍茶とプーアル茶のハイブリッド
このお茶の生産工程は以下の通りです。
- お茶摘み:プーアル茶の基準にて1芯2-4葉
- 萎凋 & 浪青
- 殺青
- 天日乾燥
- 低い温度で火入れすることによる熟成
台湾の烏龍茶は微発酵であるため、萎凋&発酵は「揺青」と呼ばれます。「揺らす」という言葉の通り、穏やかな動きを加え、お茶の葉の縁部分だけを僅かに発酵させます。
それに加え、潮州の烏龍茶は、「浪青烏龍」と呼ばれます。「浪」という言葉のとおり、より荒々しくお茶の葉に動きを加えることで、発酵をより深く行います。
このように、鳳凰単叢烏龍茶の製茶技術を取り込むことで作り上げられたお茶ゆえ、また、これまでに全く無かった新しいカテゴリーのお茶ゆえ「功夫プーアル茶」という名称で呼ぶことにしました。功夫とは日本語では工夫と書きます。功夫とは潮州式のお茶作りの代名詞として使用される言葉で功夫プーアル茶とは、つまり、潮州式の製茶技術を取り入れて作られたプーアル茶という意味です。本商品は馬鞍山のお茶を原料に作られていることから、お茶の名称は最終的に、馬鞍山 功夫プーアル茶としました。
完熟マンゴをイメージするような甘い香り
非常に硬い名称と、複雑な工程で作られる馬鞍山功夫プーアル茶ですが、実際に飲んでみると万人受けする味香りに驚かれるかと思います。まず、馬鞍山の原料茶葉を使用しているだけあって、非常に深いコクと広がるのあるふくよかな味わい(ボディ)がします。
香りですが、紅茶、白茶、鳳凰単叢烏龍茶、東方美人、ビンテージ物のプーアル生茶の全てのお茶が凝縮したような香りがします。私が最初に飲んで時に受けた印象は、完熟マンゴの香りだと思いました。また、桃のような香りもするように思いました。このお茶は紅茶と烏龍茶の個性が強く感じられますが、同時にプーアル茶としての個性も兼ね備えており、当然、熟成に対しても面白い熟成が期待できるお茶です。自然栽培にてウンカに汁を吸われた茶葉を使用しているだけ有り、今後の熟成により蜜の香りが形成されることも期待できます。
一般的なプーアル茶は数人の茶師が一人の監督の下で働き、共同作業により製茶されます。このため、比較的効率よくお茶を作る事が出来るのですが、本商品は、潮州出身の一人の茶師のみが自ら手作りするひつようがあります。当然、雲南省で他に「浪青」の発酵技術を有する人はおりません。今年は雨が多く晴れた日を見ての製茶作業だったため、仕入れられた量は私が希望した量よりも少なめでした。このうち、半分を餅茶200gに緊圧し、残りの半分を散茶にて販売することにしました。馬鞍山産の原料が非常に高い為に、高価なお茶ではありますが、とてもお薦めのお茶です。