プーアル茶に含まれるカフェインは緑茶などよりも少ないという記述をよく目にしますが、本当にそうなのかどうか、様々な論文を調べることでプーアル茶に含まれるカフェインの量を再検証してみました。
多くの人が信じて疑わないプーアル熟茶のカフェインは少ない説
プーアル茶には2つの種類があります。雲南省の産地にてプーアル茶と言ったら、普通プーアル生茶をさします。生茶は緑茶と全く同じ作られ方をしており、唯一の違いは緑茶は熱風などの機械乾燥をするのに対し、プーアル生茶は天日乾しで乾燥されます。ある意味、プーアル生茶は緑茶の1つのスタイルと言えます。
それに対して、プーアル熟茶はプーアル生茶を原料とし、微生物発酵で約2ヶ月近くかけて生産されます。発酵には放線菌をはじめとする好気性微生物、嫌気性微生物、更には、カビや酵母などの真菌類が関与します。時間をかけて、しっかりと発酵が行われれうことから、原料に含まれるカフェインの多くは分解されると思われがちです。
研究者が実際にプーアル茶のカフェインを分析した論文を探してみました。
李 家華らが農業生産技術管理学会誌 15(2) : 73-79, 2008に投稿した論文(日本語)によると、カフェインの含有量は発酵が進むにつれてむしろ増加しております。
上記の論文ではカフェインが「増加」しておりますが、おそらく、発酵によって揮発成分などが失われ、乾燥重量が減少したことで、相対的なカフェインの割合が増加したのではないかと思われます。何れにしても、カフェインは発酵によって減少はしてません。
Yuegang Zhou, Hao Chen, Yiwei Deng, Talanta 57 (2002) 307-316 の論文(英語)では異なる種類のお茶のカフェイン量をHPLCという分析装置で定量して比較しております。この研究では、全く同じ原料を比較してないため、原料の品質による成分のバラツキが考慮されておりません。ともあれプーアル熟茶に含まれるカフェイン量に関しては、他のお茶と似たり寄ったりの数値と言えます。各種お茶のカフェイン含量は以下のように報告されております。
お茶の種類 カフェイン(mg g-1 tea) プーアル茶 22.4 Meifoo Green Tea 26.8 上海緑茶 23 龍井茶 28.5 ジャスミン茶 29.6 福建烏龍茶 7.44 江西烏龍茶 18.7 福建紅茶 21.6
これらの論文を読む限り、プーアル茶のカフェイン量は微生物による発酵工程を経ても、減少することは無さそうです。つまり、「プーアル茶にも他のお茶と同様にカフェインが含まれている」と言えます。
捕捉
カフェインの含有量は茶葉の成長と共に減少する事が分かっております。表中で福建烏龍のカフェイン含有量が少ないのは、福建省を代表する安渓鉄観音や武夷烏龍は茶摘みのタイミングが非常に遅く、成熟した茶葉を用いてお茶が作られることが関係していると思われます。
窒素肥料を使わずに作られたお茶には余りカフェインが含まれないというHOJO説
尚、カフェインは苦味を呈する物質であり、分子内に窒素を含みます。私の経験上、質の低いプーアル茶は苦味が強く余韻がありません。逆にプーアル茶の質が上がるにつれ、余韻が長くなり、同時に苦味が減少します。質の低いプーアル茶とは、大量の肥料を与えることで現代的な大量生産方式で作られたお茶であり、逆に、質の高いお茶は窒素肥料を全く与えずに自然栽培されたお茶です。カフェインは分子内に窒素を含む、窒素化合物であることを考慮すると、窒素肥料を与える→苦くなる、窒素肥料を与えない→苦くないと言うことは、窒素肥料の施肥量がカフェインの合成と深く関係していると推察できます。今後、機会があれば実際に分析をしてみたいと思います。この仮説が正しいとすると、カフェインを控えたい人には肥料を全く与えずに作られた自然栽培のお茶がお勧めです。